交通事故によって怪我をして働けなくなった。この場合、被害者は加害者に対し、休業損害を請求することになります。
被害者が給与所得者(会社員)の場合、勤務先に休業損害証明書を作成してもらいます。これが休業損害の立証資料となります。通常は、加害者が加入している保険会社に休業損害証明書の書式を送ってもらい、勤務先に作成してもらいます。休業損害証明書には、過去3か月の給与と事故後の休業日(有給休暇取得日を含む)が記載されているため、これらの内容に基づき、休業損害が算定されることとなります。
これに対し、被害者が自営業者の場合、「勤務先に休業損害証明書を作成してもらう」ことはできません。また、タイムカードなど、就労日や休業日に関する客観的資料も存在しないので通常です。このため、自営業者の場合、加害者側の保険会社との間で、休業損害の有無や計算方法が争われることが多々あります。
自営業者の場合、事故前の課税証明書や確定申告書を提出することになります。これにより、休業損害の日額を計算することになります。なお、事業所得がゼロや過少であったとしても、青色特別控除や減価償却費なども含めて計算することで、休業損害(日額)が増える可能性があります。したがって、確定申告書と収支内訳書の内容を確認することが重要です。
事故後に休業したか否かは、事故後の治療状況(入院・通院状況)を確認することが必要です。入院している場合、骨折等で事業に従事できない場合などは休業の事実は認定されやすいといえます。これに対し、頚部挫傷等の場合には、事故によって休業したと主張しても、その主張が必ずしも認められるというわけではありません。この場合は、①怪我によって支障が生じるようになった部位、②その支障にょって、どのような仕事(作業)ができなくなったかを具体的に説明する必要があります。
事故前後の確定申告書を比較すると、売上高や事業所得に変動がない場合もあります。このような場合には、「事故によって減収や減益がないので、休業損害は発生していない」と指摘される可能性があります。このような場合は、事故後の月次売上高を確認することが必要です。年間ベースでは売上高や事業所得に変動がなかったとしても、事故直後の期間に売上高の減少が認められるのであれば、その期間について休業損害が認められる余地があります。また、月次で損益計算書を作成してみて、事故前にはなかった経費(人件費や外注費など)があれば、これらが損害と認定される可能性もあります。
これまで述べたとおり、自営業者の場合、休業損害を請求するにも様々な資料を提出する必要があります。また、資料を提出しただけでは不十分で、そこから更に詳しい説明を行わなければならない場合もあります。
なお、軽微な事故の場合、そもそも負傷したこと自体が争われることがあります。この場合、上記の資料を提出したとしても、相手方から「休業の必要はなかった」として休業損害の発生を否認されるので、ご注意ください。